書で自分を表現
心に宿る思いを筆に乗せて

今年も残すところ30日ほど。いかがお過ごしですか。ゆいツアーデスク・コンシェルジュの出野上(いでのうえ)です。2019年は年号が変わり、酷暑や大型台風、ラグビーワールドカップの熱狂…と大きな出来事が多かったですね。今年の振り返りと来年の誓い、年に一度のご挨拶に欠かせない年賀状など、年末年始は自分と向き合う時間を持つことも増えそうです。そんな時、心に宿る思いを真っ白な紙に表すことが出来たら、ステキですよね。おかげさまで毎回好評の旅と暮らしを彩る講習会、今回は2018年8月の「印刻」講座に続いて、藤村ちゅうら先生から書の楽しさと深さを学びました。その様子をお伝えします。

あらためて知る、五書体の個性

今回は受講者のみなさまから書きたい文字を事前にお聞きして、その参考となるように、いくつかの字体を藤村先生に書いてもらいました。書の基本は五書体。教科書でなじみの深い「楷書」、文字をつなげて書く「行書」は日常でも良く見かけますが、他はどのようなものでしょう?
「篆書(てんしょ)」は最も古い書体。篆書は複雑で難しいのですが、格式があり、お札の表の右上に刻まれている【総裁之印】は篆書です。

「隷書(れいしょ)」は篆書を省略し書きやすくしたもので、はらいが特徴。新聞の題字、印鑑に使われていることも多く、読みやすい書体です。「お札の金額や【日本銀行】という文字は隷書なんですよ」と藤村先生。篆書と隷書は、ふだん目にするお札に記されていたんですね。

「草書」は隷書を簡略化したもので、独特の崩し方により、読みづらい書体です。老舗のお店の看板に使われているのを見かけます。「行書」は草書を少し整えて、文字と文字をつなげて書かれたもの。急いで書いたメモ書きのようにも見えます。「楷書」は一画一画、はっきりした折れや曲がりがあり、現在広く使われている書体です。五書体にそれぞれ違いがあるため、見比べるだけでも楽しいものです。

準備運動の筆ならし

書も、いきなり書くのではなく、準備運動が必要です。まず、墨汁を筆にたっぷりと含ませます。藤村先生の墨汁は年末、清水寺で今年の文字を書き上げる際に使う墨汁と同じもの。化学合成物は含まれておらず、墨をすった時のようないい香りがします。

墨汁の量が多すぎる時は、お皿のヘリで調整。「筆は、含んだ墨が筆先に向かってどんどん筆先に降りてくるので、1枚を書ききるようにたっぷり吸わせてください」と藤村先生からアドバイスがありました。

墨を含んで膨らんだ筆先。軽く筆を持って、山、谷、山、谷とジグザグに書いていきます。次は最初の線より細く、3本目はさらに細く、4本目は一番太く…と同じスピードで、線の太さをコントロールできるように書いていきます。縦書きのギザギザ、横書きのギザギザ。左回りのクルクル、右回りのクルクル。縦線、交差する横線。小さな三角や星、丸など自在に筆を操ります。

「息を止めないで、息を吐きながら書いて」藤村先生のアドバイスどおり、息を吐きながらすーっと線を引くとまっすぐきれいな線が書けます。また、「墨がかすれそうになったら、ゆっくりと筆を運ぶとかすれるのを避けれらますよ」の言葉の通りにゆっくり書くと、墨を足さなくても書ききれるのが不思議です。

文字には、気持ちが表れる

受講者のお一人が選ばれた言葉に「瑞気集門」というものがありました。年賀状にも使われる賀詞で、おめでたいことが起きる兆しが玄関先に集まっている、という意味の幸運を祈る言葉です。「瑞」の王へんはマサカリの形。つくりの上部に日がさして、下部は人が立つ様を示しています。「気」は空気の流れ。「集」は羽根をなびかせて鳥が木に止まる様子。「門」は閂(かんぬき)が開いている状態…とそれぞれの成り立ちを知ると、文字に親しみがわいて書きやすくなります。

隷書は書き始めと書き終わりが丸く、ミシンの返し縫いのように最初と最後を逆に運ぶ筆の進め方が独特。慣れるまでは難しそうでしたが、練習するにつれ、きれいな丸みを持つ文字が書けるようになりました。

書体や配置、バランスによって、同じ言葉でも印象がぐっと変わります。

ご自宅で飾るよう豆屏風に書いて、最後に印をつけます。「福」の一文字や華やかな気分になるもの、幸運が舞い込む縁起物などいろんな種類の印から選びます。

書はフィギュアスケートのよう

最後に藤村先生からきれいな字を書くヒントをもらいました。息を吐きながら書くと、特に縦線はまっすぐきれいに書ける。崩し文字は、早く書かず、ふだんと同じスピードで筆を運ぶこと。半紙の上に墨が付いていなくても、文字の一画一画のつながりを感じるように。こぢんまりとではなく、筆の運びは大きく遠回りに、優雅に次の動きへと連動させて、収筆はぎゅっと。まるでフィギュアスケートのように…と。

先生の言葉通り、書に関する所作は水が流れるように美しく、書くことで気持ちも高揚してきます。うまく書けた時の爽快感。自分の心のありようが映し出される書の魅力にひきこまれた講習会でした。

ゆいツアーデスクでは、旅と暮らしを彩る様々な講習会を毎月開催しています。ぜひ、ご参加ください。

前回の「印刻講座のレポート」はこちら

藤村ちゅうら

13年間、アパレル会社でデザイナーとして勤務するかたわら、書道・ 篆刻を学ぶ。2002年より、自宅と文化サロンで教室を主宰。

リンク:https://yui-tabi.sakura.ne.jp/website/reading/3204/

真結の旅

私達がつくる“いまだかつてないバス旅”、 それが「真結(ゆい)」であり、風呂敷の結び方である“真結び(まむすび)”から由来したものです。 “本物”の旅を身体と心で感じていただき、そしてその感動をお客様が共有(結びつき)していただける“こだわり”のツアーブランドです。 観光地やお食事、そしてお宿と、“こだわり”だからこその工夫や心づくしを凝らしますが、決して“本物”=“高級”ではなく、質素な中にも“本物”を追求した旅程を、経験豊かなプランナーがご提案いたします。