2019年「今年の漢字」は「令」に決まりましたね。令和元年は、どんな年でしたか?令和は、日本の古典を参考にして選ばれた初めての元号。改元をきっかけに、日本の歴史に興味を持つようになった方も多いのではないでしょうか。今回の旅と暮らしを彩る講習会では、ミモザのリースつくりでおなじみの辰巳先生から、古来より神聖なものとして飾られてきたヒカゲノカズラを使ったお正月飾りのつくり方を、久谷先生からは組紐でつくる縁起のよい菊結びを教わりました。その模様を、ゆいツアーデスク・コンシェルジュの出野上(いでのうえ)がレポートします。
優美な伝統技法、菊結び
はじめに、久谷先生から菊結びを教わります。組紐の結び方は日本古来の伝統技法で、菊の他に蝶や鳥、家紋などの種類があるそうです。菊結びは、延命長寿の願いが込められたおめでたい結び方。縁起がいいのでお正月以外のシーンにも使えそうです。
まず用意されたのは、濃い紫色をした140㎝の組紐。半分に折り、指定された長さで十字にします。下から斜めへ、右から左へ…パタンパタンと折っていきます。くぐらせるのは2回だけ、なかなかうまく結べずに四苦八苦する方もおられましたが、何度かチャレンジするうちに菊結びを習得。真ん中のつぼみの部分はぎゅっと、左右に伸びる花弁は長めに、上下左右を囲んだ斜めの部分はふんわり丸くすると菊の花が咲いたようになりました。
結んだ後は、垂らす部分を1本ずつ解いていきます。組まれた糸をほどき、縮れた糸に蒸気を当てると、魔法がかかったように1本1本がまっすぐサラサラに。糸につやが出て、高貴さが一段と増しました。
「菊結びは和のものですが、アクセサリーやカーテンのタッセルにもピッタリなんですよ」と久谷先生。受講者の方々の間では「上の紐を長くして、ペンダントにしようかしら」「孫の七五三の髪飾りを作ろうかしら」と様々なアイデアが飛び交いました。
後日、お好きな色で作った菊結びのペンダントをツアーデスクへ見せに来て下さった方も。とても素敵な作品でした。
古事記にも登場するヒカゲノカズラ
菊結びができたら今回の主役、ヒカゲノカズラです。
神話の時代、天岩戸(アマノイワト)にお隠れになった天照大神(アマテラスオオミカミ)を外にお出しするきっかけとなったのが、天宇受売命(アメノウズメノミコト)の舞。その際に身につけたのがヒカゲノカズラだったと古事記に書かれているとか。
冬でも瑞々しく緑をたたえるヒカゲノカズラは、宮中では卯杖(ウヅエ)と呼ばれ、長く垂らした形で飾られています。また毎年11月23日に五穀芳醇を祝う宮中祭祀の新嘗祭(ニイナメサイ)や、2019年話題になった天皇が即位して初めて行う新嘗祭である大嘗祭(だいじょうさい)でも使用される神聖なもの。新しい年を迎えるのにふさわしい植物です。
そんなヒカゲノカズラですが、意外にも身近に目にすることがあります。シダ科の植物であるヒカゲノカズラは主に山で採れ、地面を這うように広がり生息するので、山やゴルフ場で見かけた方もおられるのでは?土にまみれ、採取する際に切れてしまうので、店頭に並ぶヒカゲノカズラは長くて1メートルほど。こんなに長くて美しいヒカゲノカズラは珍しく、辰巳先生が何か月も前から花市場に発注し、頼み込んで取り寄せてもらったもの。花市場で「そのヒカゲノカズラを譲ってほしい」と声かけられたくらい、貴重だそうです。
「宮中では決められた長さで長く垂らしますが、玄関や床の間など飾る場所に合わせて長さを決めてくださいね」と辰巳先生。長すぎる場合はたくしながら、ほどよい長さに整えていきます。
邪気を払い幸運を招く5種類の縁起物
さらに「不老長寿」や「向上心」の意味が込められた松を2本、難(なん)が転(てん)じて福となる、と言われる縁起物の南天を1房、豊潤を願う稲穂を1本、ヒカゲノカズラと共に1つにまとめ、根元を半紙で隠します。
最後に紅白の水引と、先ほど作った菊結びの飾りを添えて。ヒカゲノカズラ、松、南天、稲穂、菊。5種類の縁起物がそろった、お正月飾りが完成。花材は多くはないですが、贅沢に垂れるヒカゲノカズラや水引、菊結びで寿ぎの新年を迎えるのにふさわしいお正月飾りとなりました。ゆいツアーデスクの組子をバックに、みなさん思い思いに写真を撮られていました。
2019年は、みなさまに大変お世話になりました。2020年も、旅と暮らしを彩る講習会を企画していきます。ご興味のあるものがございましたら、どうぞご参加ください。お待ちしております。