身近にあるのになかなか使う機会がなくて、どこか古風なイメージを持つ風呂敷。ですが、風呂敷はおどろくほど多機能で、現代風のデザインやバリエーションも豊富です。京都の風呂敷専門店「むす美」のアートディレクターであり、風呂敷店生まれの山田悦子先生から、風呂敷の本質や日常に取り入れやすい使い方を教わりました。心も暮らしも豊かにしてくれる、充実した講習会の様子をお伝えします。
ものを包むだけではない万能性
風呂敷はものを包み、着物は身体を包むといったように…日本には「包む」文化が受け継がれてきました。時代が移り変わり、洋の文化が入ってきたことで洋服に身体を入れ、バッグに荷物を入れる、いわゆる「入れる」文化に変化したことで、私たちの暮らしのほとんどが洋の文化で成り立つようになったそうです。
しかしながら、日本の風呂敷ほど実用性に富み、知恵があり、役に立つものは他に類を見ません。贈る相手のことを考え、心も一緒に包み込む。これが、日本人が大切にしてきた、心と心を通わせる美しい文化です。
守る、結ぶ、形作る
風呂敷を使う際には、ものを包んで、結びます。「包む」という文字は、中国から伝わった象形文字から生まれたといわれており、母親が赤ちゃんを宿した姿にも見え、「いろんなものから守ってあげたい」という想いが込められているようです。
また、「結ぶ」の語源は娘(”むす”め)や息子(”むす”こ)、おにぎりを「結ぶ」など。お父さんとお母さんが結ばれていなければこの世に存在しなかった存在であり、新しい命や形が「形作られる」ことに由来します。
包んだ時に、一番きれいな状態で
風呂敷に込められた意味を知った後は、サイズの異なる2枚の風呂敷を使った実践編。風呂敷は正方形だと思われがちですが、実はそうではなく、縦と横の伸び率の違いによって、横幅に対して縦が若干長いそうです。また、一般的な風呂敷のサイズである68~70cm幅は「二巾(ふたはば)」と呼ばれ、古来より反物(たんもの)のサイズは一巾(ひとはば)を単位につくられてきました。
様々な柄のバリエーションが魅力的な風呂敷ですが、実はそれぞれにメインとなる柄(主柄)があります。包んだときに一番きれいな状態でお渡しするのが、日本人が大切に伝えてきたおもてなしの心なのだそう。
はじめは、基本的な包み方である「平包み(ひらつつみ)」。ご祝儀や不祝儀などを包む場合、熨斗(のし)の水引の向きにもルールがあって、お祝いごとの時には頭を左に、お悔やみごとの場合は頭を右にします。手前、左、右、上という順に包んでいくだけなのでとても簡単なのですが、フォーマルなシーンにも適しているため、大切なものを届けるときにおすすめ。包む中身に対して約3倍の大きさの風呂敷を使うと、美しく包むことができます。
なお、お渡しするときは、まず水引を自分のほうに向けて風呂敷を外し、「持ってきた汚れはすべて自分が持ち帰ります」という気持ちを込めて風呂敷を先に片付け、水引を相手の方に向けてお渡しすればよいのだそう。このルールを覚えておけば、あらたまった場所でも堂々と活用できそうです。
平包み
平包みを少し応用した「お使い包み」
更に応用した「隠し包み」
結び方は、たったの2つ
結びめのない「平包み」と「お使い包み」を学んだ後は、「真結び(まむすび)」と「ひとつ結び」を体験。風呂敷の結び方はこの2種類だけで、基本はシンプル。あとは組み合わせに応じたアレンジが可能です。
風呂敷の正式な結び方である「真結び」は、固く結ばれてほどけにくい一方で、解きたいときには魔法のようにするすると解ける結び方です。これは、お客様同士、地元の方やお宿、スタッフとの結びつきを大切に考えた「真結(ゆい)」の旅の由来となった結び方。さらにもうひとつ、「ひとつ結び」は包むものの大きさで結ぶ位置を決められる、という特徴が。
組み合わせて包む、を学ぶ
次は、95~100cmサイズの風呂敷の使い方です。まず学ぶのは「しずくバッグ」。「ひとつ結び」と「真結び」の組み合わせで簡単にできてしまう上、用途も万能。肩以外にも斜めにかけたり、ウエストポーチとしても使えます。
本やパソコンなど平たいものを包むのに適した「リボンBAG」は、「真結び」の組み合わせ。この包み方をマスターすると、お家でつくったお料理やケーキのお皿ごと入れることが可能です。これは、中身にあった袋を選ぶ手間を省けて、本当に便利。
参加者の中から「これはすぐ使いたい!」という声が上がった「クイックバッグ」は、スーパーなどで買い物をしたときに使うエコバッグとして。「真結び」が2つの「スイカ包み」が基本で、結び目2つを一緒に持つだけでOKです。ただ、レジで買い物カゴに風呂敷を敷く勇気さえあればいいのですから、こんなにエコなことはありません。
華やかなラッピング、花つつみ
応用編として、包んでから花を形作る華やかな「花包み」を教わりました。プレゼントされた方がお喜びになること間違いなし。ラッピングの代わりに、後々も使える風呂敷を使ってプレゼントをお渡しするのも素敵です。お中元やお歳暮などで、日本酒などの瓶ものを選ぶ方が大勢いらっしゃると思いますが、またまた風呂敷の出番。「こんな風にお持ちいただけたら、とてもうれしいですね」と、参加者のみなさんも満足そうなご様子でした。
風呂敷の歴史にはじまり、ふだんの暮らしに取り入れられる使い方を習って、とても充実した内容だったこの講座。「すごく楽しかった」「これから、風呂敷を使っていきたいです」と、参加者の方々にも笑顔があふれていました。古くから生活に使われてきた、日本人の知恵がぎゅっと詰まった風呂敷。相手を想う心を一緒に包む、そんな日本人としてのおもてなしの精神を、今後も次世代に残せたら幸いです。これからも、約月1回のペースで講習会を企画してまいります。どうぞお楽しみに。