職人の技が生み出す美
伝統の幾何学模様にふれる「組子」体験

300年もの歴史が続く、福岡県の大川組子。計算しつくされた幾何学模様は、贅と技の限りがつくされており、圧倒的な美しさで見る者を魅了します。大川組子は、その存在感からクルーズトレイン「ななつ星in九州」や「或る列車」など日本の鉄道デザインにおける第一人者である水戸岡鋭治氏のデザイン車両に採用されました。「ゆいツアーデスク」の顔であるショーウィンドウの間仕切りも、同じ組子職人である木下木芸の木下正人さんが手がけた逸品です。

今回は、制作者である木下さんから、組子の歴史やデザイン車両制作時の裏話など貴重なお話が聞ける組子コースター作りのイベントを開催しました。その様子を、お伝えします。

音を出してはいけない、という課題

建具職人の次男として生まれた木下さんは高校卒業後、見習い修業をした後に、26歳で独立。仕事は、欄間(らんま)や書院造りの障子の制作が中心でしたが、住環境の変化により仕事は激減。「現代の家に受け入れられるよう、こちらが変化しなくては」と意識変革を迫られました。

そんな中、担当したJR博多駅のラウンジ「金星」の内装が、デザイナー・水戸岡鋭治氏の目に留まり、「ななつ星in九州」の内装を依頼されたそうです。ただし、家とは違い、走ったり止まったり、動く列車に繊細な組子を搭載するのは並大抵のことではありませんでした。

中でも一番苦労したのが「音を出してはいけない」ということ。一時は「できない」という答えを出した木下さんに「木下君、『やれる!』という気持ちでやらないと、新しいものなんて誰もできないよ。誰もやったことないんだ。一生懸命やって問題が起こったときは、みんなで解決すればいいじゃないか」という水戸岡氏の言葉に、肩の力がすっと落ちたといいます。そうして試行錯誤を重ね、「ななつ星in九州」の世界観をより魅力的に体現する組子が完成しました。

さわり心地は気持ちよく、丈夫な組子

一般的な組子は、ホコリがたまらないようにガラスに挟むのだそうですが、水戸岡氏は「組子を、木を触ってほしい」という気持ちから、組子そのものだけを使ってデザイン。「ゆいツアーデスク」にあしらわれた組子もすべすべで「とっても気持ちがいいので、ぜひ触って帰ってくださいね」とのこと。むき出しなのに、とても頑丈。「ななつ星in九州」に使われている組子は、完成から4年半経った今でもメンテナンスの必要がないそうです。

「ななつ星in九州」と同じ体験を

組子への関心がますます高まるお話の後は、いよいよ制作。講習会用のキットは「ななつ星in九州」と全く同じもの。この体験ができるのは「ななつ星in九州」の乗客と、この講習会に参加された方々のみ!

キットの袋を開けると、ふわりと木の香りが漂います。木下さんが自ら奈良県吉野まで足を運び、吉野杉を買い付けているそうです。キットには大小数多くの木片が入っており、ひとつひとつ、すべてに角度が付けられています。これらはすべて職人の手によるもので、この角度によって組子が組み立てられていくのです。

コースターの柄は「変わり麻の葉」と呼ばれるもの。麻の葉柄は古くから魔よけとして使用される他、太くまっすぐ、すくすく育つようにとの願いが込められ、赤ちゃんの産着や女性の長襦袢の模様としても使われています。

最初は、小さくて薄い木片におそるおそる触れていきます。木片同士がぴたりとはまった瞬間の心地いい音や手に伝わる感触に、だれもがやみつきに。少しでも角度がずれるとはまらない、粗く扱うと折れてしまいそうな繊細なパーツを手に、集中しながらも文様ができあがっていく様を喜んでいらっしゃいます。

なお、このキットは通常の組子商品より作りやすいようにと、角度を甘くしてあるとのこと。あと少しでもゆるくすると組子が完成せず、もう少しきつければ組子がはまらない、という絶妙な角度で作られた木片なのだそうです。

光と影をたのしむ

完成したコースターに光を当てると、「変わり麻の葉」の美しい影が登場。さらに、光を当てる角度によって表情が移ろう様子もお楽しみいただきました。

コースター以外にも、障子や透明なガラスに張って飾りにしたり、鍋敷きにしたりとどう使おうか考えるのも楽しみのひとつ。最後はご自身の作品を手に、木下さんと記念写真を。どなたも達成感に満ちあふれているようでした。

「残さないといけないのは、‘モノ’ではなくて‘技術’だ」と話してくれた木下さん。住環境や工芸の世界だけでなく、ありとあらゆるものがどんどん変化する昨今、10年前とは異なるスタイルになっているものは数多くあります。組子のコースター作りを体験した参加者の皆様が、このすばらしい技術を心にとめてくだされば幸いです。

「真結」の秋旅では、2018年の12月上旬に「或る列車」乗車と「木下木芸」を訪問するツアーを予定しています。講習会には参加できなかった方もぜひ現地を訪れ、組子に触れてみませんか。

「木下木芸」木下正人

船大工の技術をルーツに持つ家具のまち「大川」の地で、 約300年前から続く建具の技法のひとつが「大川組子」。 JR九州の「ななつ星 in 九州」や「或る列車」など、水戸岡鋭治氏のデザイン車両の車内装飾に採用されています。「ゆいツアーデスク」入口にある組子も、木下さんの手によるもの。

真結の旅

私達がつくる“いまだかつてないバス旅”、 それが「真結(ゆい)」であり、風呂敷の結び方である“真結び(まむすび)”から由来したものです。 “本物”の旅を身体と心で感じていただき、そしてその感動をお客様が共有(結びつき)していただける“こだわり”のツアーブランドです。 観光地やお食事、そしてお宿と、“こだわり”だからこその工夫や心づくしを凝らしますが、決して“本物”=“高級”ではなく、質素な中にも“本物”を追求した旅程を、経験豊かなプランナーがご提案いたします。