旅先で出会った風景や、日々の暮らしの中で抱いた小さな感動を、大切な人に伝えたい…作品にしたい。想いを込めて送る手書きの葉書は、いっそう気持ちが伝わって、受け取る側もうれしいものです。このたび、「書」で葉書という作品を創造する講習会を開催しました。墨の香りが漂う中で伝えたい想いを自分らしく表現する、満ち足りたひとときの様子をお伝えします。
書きたいことば、字体を決める
葉書サイズの小さな作品をイメージして、書きたいことを決めます。先生の作品を参考にしたり、ツアーデスクに設置している旅の本からヒントを得て、心に響くことばを選びます。中には、ご家族の名前を作品にしたい、という家族愛あふれる方も。「真結」の旅にちなんだ「旅」や「笑」「楽」「遊」「叶」「吉日」など、気持ちが込められた1文字1文字、ことばが生まれていきます。
そして、使いたい字体を先生と相談しながら決定します。だれが見ても分かる字体や、ものの形からうまれた象形文字、中国から伝わった篆書(てんしょ)のような古代の字体など、伝えたいイメージを表現する字体を選びます。たとえば「笑」という字は、女性が手を上げて笑っている様子を表している…という風に文字のなりたちやことばの意味も教わって、想いと文字、ことば、そして字体が一体となって作品をつくり上げていくのです。
作品のイメージをふくらませる
次に、大きめの白い紙に鉛筆でデッサンします。作品の枠取りをして、どんな風に作品を仕上げるかを考えます。ここで大切なのは、「空間」を考えること。葉書という空間にどう文字を入れていくか、ということと同時に、やさしい、たのしい、かっこいい、シャープなど、書きたいイメージをふくらませ、太い細いの強弱を付けながら、実際に筆で書いたようにデッサンしていきます。「楽しい人生を」と、ご自身の目標を掲げたり、大切な人への祈りを「叶」という1文字に込めたりと、思い思いにイメージが広がっていきました。
墨に、静かに気持ちを乗せて
墨の色には、濃墨(のうぼく)と淡墨(たんぼく)があります。墨をすり、水を足して淡墨をつくり、やわらかく表現したいときはさらに水を足しながら濃さを調整します。1つの作品を濃墨と淡墨を織り交ぜてつくりあげる場合、淡墨から書いていくと全体のバランスが見やすいと教わりました。
筆は、立たせると細く、寝かせると太くなり、360度使えるので、表したいイメージに合った太さを見つけていきます。篆書では、筆先を逆から入れる「逆筆」を使い、象形文字は塗りつぶして書くなど、あまりなじみのない書き方や、すばやく書くと勢いが出てダイナミックに、ゆっくり書くと優しい感じになるという技も教わりました。筆の使い方、書き方を学んだあとは、墨で練習用の半紙に書いてみます。大切なのは、上手に書こうとするのではなく、気持ちを乗せて書くこと。みなさんは真剣なまなざしで、思い思いに下書きに挑んでいきました。
まっさらな気持ちで、白いキャンバスに
半紙での練習が終わると、いよいよ本番。水彩用紙、水彩ハガキ、画仙紙、見開きカード、吉野の手すき和紙に、書きたい順番で書いていきます。水彩用紙はざらざらした面が表であるなど、それぞれに紙質が異なり、同じ文字を書いても印象が変わります。練習した感覚を胸に、本番は気持ちを落ち着かせて書いていきます。
作品としての完成度を上げるため、先生が季節やシーンに合った選りすぐりの刻印をお持ちくださいました。春を象徴する「つくし」、いろんなところを見て楽しむ「遊目」、縁起物の「ひょうたん」、佳き日の「好日」の4種類から作品に合う刻印を選び、最後の仕上げは先生に託します。墨の世界に朱色が加わることでメリハリが生まれ、作品がしまるのです。参加者のみなさんは、書のできばえにとてもご満足の様子。参加者同士で作品を見せ合うなど、和気あいあいとした雰囲気でのティータイムをお楽しみいただいて、講習会は終了しました。
ちょっとしたご挨拶に季節感を取り入れた手書きの書でしたためることができれば、葉書や手紙を送るのが一段と楽しくなりそうです。この講習会をきっかけに、少しでも書を身近に感じて、今後の暮らしに取り入れていただければ幸いです。今後は、藤村先生による刻印教室を企画する予定です。また次回も、どうぞお楽しみに。